初恋をもう一度。【完】

3日間の期末テストをやっと終えて、放課後わたしは第2音楽室にやって来た。

部活に顔を出したものの、例によって、また新しい曲のスコアを渡されたので、早々に退散したのだ。

今度は夏祭りで演奏するらしく、渡された2曲はどちらもポップスだったので、わたしはティンパニではなくドラム担当だ。

ピアノの楽譜と同様、ドラムスコアも読み取るのが苦手なので、一度完成形を耳で聴いてからの方が、すんなり叩きやすい。

曲は家のネットで頑張って探そう。

なんて、結局はピアノが弾きたくて仕方ないだけなのだ。

家の電子ピアノよりも、やっぱり本物のグランドピアノを触る方がいい。

だって、タッチは勿論、音が全然違うもの。


第2音楽室には誰もいなかった。

ピアノの前に座って、おもむろに鍵盤を押す。

静かな音楽室に、ポロンと、わたしが鳴らした音だけが響く。

ふいに、この静けさを壊したい衝動にかられて、わたしは両手を鍵盤の上に乗せた。

ジャーン!と勢いよく最初の和音を鳴らして、それから少しソフトに。

そしてまた、だんだんと強く。

高音を優しく押さえたあと、低音まで1音ずつ、一気に右手を滑らせた。

そこからは、昂る気持ちをギリギリ抑えるように。

ベートーベンの悲愴、第1楽章。

とても難しくて、最初の方しか弾けないのだけれど。
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