初恋をもう一度。【完】

トレモロの連続で左手がつりそうになったので、手を止めると、

「悲愴はやっぱ、第一楽章がいいよね」

急に声がしたから、びっくりしてしまった。

「えっ…………いつの間に?」

鈴木くんがすぐ近くの机に、ちょこんと腰かけていたのだ。

演奏に夢中で、全く気づかなかった。

「さっきからずっといたよ?」

鈴木くんは、にっこり笑った。

「奈々ちゃんってピアノ何年習ってるの?」

「えっと……実はわたし、習ったことないの」

遠慮がちに答えると、鈴木くんは目を丸くした。

「え? まじで言ってるのそれ」

「家にピアノがあるだけ。だからすごい下手っぴなの。楽譜もあんまり読めないし」

「いや、全然下手じゃないよ! それに、楽譜読めないのに弾けるって、耳コピ? え、今の悲愴も?」

「う、うん。一応楽譜も見て、でも指で音を探して……」
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