初恋をもう一度。【完】
「俺が押さえてるから、このままトレモロやってみて?」
鈴木くんは、わたしの左手に視線をやったまま淡々と言った。
その横顔を見たら、急に恥ずかしくなった。
熱心に教えてくれているのに、わたしは何を勘違いしているのだろう、浮かれすぎだ。
ちゃんと教わろう。
わたしは前に向き直った。
「手、動く?」
「ううん、動かない」
手首を固定されているせいで、小指から親指に音が繋がらない。
「じゃあ、肘ごと振ってみて」
「肘ごと? ……こうかな?」
肘を回転させたら、今度はちゃんと動かせて、音が繋がった。
「ラクでしょ? 」
鈴木くんはこちらを向いて、にっこり笑った。
「うん、力入らなくて弾けるかも」
「この感じ、覚えてね……………あっ!」
その笑顔がみるみる内に赤くなった。
「ご、ごめん! 手とか握っちゃって」
彼は慌てて手を離した。
「……だ、大丈夫」
急に意識するなんてずるい。
ようやく少し冷めてきたほっぺたが、鈴木くんにつられて、またかあっと熱くなった。