初恋をもう一度。【完】
しんとなった音楽室。
カチッ
壁時計の長針の音が響いた。
鈴木くんは赤い顔のまま、居心地悪そうに視線を泳がせる。
わたしも恥ずかし過ぎて、慌ててピアノに向き直った。
このままじゃ心臓が持たない。
今教わったトレモロをやってみようと、鍵盤に手首を置くと、
「な、奈々ちゃんの手首、細いよねっ」
何か喋らなきゃと思ったのか、鈴木くんがそんなことを言った。
「……そ、そうかな…」
「うん、だって見て」
わたしの手の隣に彼の手が伸びてくる。
「全然違うでしょ?」
「て……手首細いのって、ピアノに向いてないのかな?」
まだ心臓がバクバクしていて、いちいち吃ってしまう。
「いや、そうじゃなくて」
「……な、に?」
「女の子だな、って……」
そう呟いた鈴木くんは耳まで真っ赤だった。
でも、わたしのことを真っ直ぐ見ていた。
嬉しくて、でも、すごく恥ずかしい。
胸がきゅうっと締めつけられて、呼吸が止まってしまいそう。
耐えきれなくなって俯いたら、
「はは、変なこと言っちゃった、ごめんね」
鈴木くんの照れたような声が降ってきた。