初恋をもう一度。【完】
「練習の続き、しよっか?」
わたしは俯いたまま、コクリと頷いた。
「じゃあ、今の肘ごと動かす感じを意識しながら、もっかいトレモロやってみて」
言われた通りにやってみると、スピードは出ないけれど、無駄な力が入らずに音を鳴らせている感じがする。
「そうそう、そんな感じ。あとは慣れだよ」
鈴木くんはまだ少しだけ赤い顔で、にっこり笑った。
それから何度かトレモロの練習をしている内に、わたしの心臓はようやくおとなしくなった。
「奈々ちゃん、飲み込み早いね」
「鈴木くんの教え方が上手だからだよ、ありがとうございます」
「いやいや、俺が習ったこと伝えただけだし」
鈴木くんはぽりぽりとほっぺたを掻いて笑った。
「そういえば、鈴木くんは何才からピアノ習ってるの?」
「3歳からかな。俺、才能ないから死ぬほど練習させられてた」
「ええっ、そんなに上手なのに?」
わたしが驚くと、鈴木くんは「ありがと」と目を細めた。
「でもほんと、才能ない。才能あるのは兄貴の方かな」
「へえ」
鈴木くん、お兄さんいるんだ。
鈴木くんのことを一つ知って、とても嬉しくなった。