初恋をもう一度。【完】
「兄貴のピアノはすごいよ。ああいうのを天才って言うんだと思う」
「そんなにすごいの?」
「うん。聴いたらきっと、奈々ちゃんもびっくり……あ」
嬉しそうに話していた鈴木くんは、なにかを思い出したのか、急に言葉を切った。
「……どうしたの?」
「あー、この話は終わりね」
鈴木くんは苦笑いをして、
「あ、俺もなんか弾こっかな」
唐突にそう言った。
お兄さんの話、どうしてやめてしまったんだろう。
恥ずかしくなったのだろうか。
お兄さんを尊敬しているなんて、素敵なのに。
「なに弾こっかなー、なんかリクエストある?」
わたしが退いた椅子に腰かけて、鈴木くんは横に立ったわたしに笑いかけた。
「え……じゃあ、悲愴のお手本を」
「え、まじで? 俺、この曲ちゃんとやってないから、途中までしか弾けないよ?」
「うん、大丈夫。聴きたい」
わたしが言うと、鈴木くんは困ったように笑って、でも鍵盤に両手を置いた。