初恋をもう一度。【完】

「奈々ちゃん、ありがと」

ふにゃりと笑った彼の手が、すっとわたしの頭に伸びてくる。

「えっ?」

その手は、わたしの頭をくしゃっと撫でた。

心臓が、悲愴の最初の一音みたいに、強く深く揺れた。

「す、鈴木くん……?」

全身が火を吹きそうなほど熱くなっていく。

「あのさ、俺」

じっと見つめられて、嬉しくてドキドキして、なのに恥ずかしくて、逃げ出したくなる。

「…………な、に?」

息が詰まりそうになりながら、やっとの思いで声を出したら、掠れた声しか出なかった。

「俺、奈々ちゃんが……」


──けれど。

「…………ううん、なんでもない」

鈴木くんは少し赤い顔で、ぼそりと言った。

「ごめん。俺、帰るね」

「え?」

彼は「またね」と手を振ると、足早に音楽室を出て行った。


俺、奈々ちゃんが……何?

この言葉の続きを、わたしは期待してしまっていい?

下手くそなトレモロみたいな胸の鼓動は、いつまで経っても全然治まらなかった。

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