初恋をもう一度。【完】
楽譜はおばあちゃんが買ってくれた。
「え、いいよ。さっきお母さんにお金もらったもん」
わたしがそう言ったら、おばあちゃんは口の前に指を立てて、
「んじゃ、お母さんには内緒なー」
いたずらっ子みたいに笑って、わたしの楽譜をさっさと買ってしまった。
「お母さんにもらったお金は、デートにでも使ったらいいべ」
「デ、デート!? おばあちゃん急に何言ってるん!」
「だって奈々は恋する乙女だべ?」
「もおー、やめて………あ」
騒ぎながら歩いていたら、通りかかった本屋の前で、知っている顔にばったり出くわした。
クラスメイトの恩田《おんだ》くん。
それと……鈴木くん、だ。
おばあちゃんと変な話してたせいで、鈴木くんの姿を目にした途端、心臓が暴れだした。
「田崎じゃん。家族と買い物?」
恩田くんは1年の時も同じクラスで、委員会も一緒だった。
男子が苦手なわたしにとっては、数少ない普通に話せる人だ。
「うん。恩田くん……と鈴木くん、も?」
ちらっと鈴木くんに視線をやりながら、遠慮がちに名前を呼んだ。
それだけで、ドキドキして倒れそうだった。