初恋をもう一度。【完】
談話室で待っていると、車椅子に座った祖母を職員さんがつれてきてくれた。
「さくらさん、こんにちは」
わたしは祖母に向かって、そう挨拶をする。
わたしのことなんてわからないのに、祖母はとても嬉しそうに笑って「こんにちは」と言った。
それから母がいろんな質問をして、祖母が答える。
例えば「あなたのお名前はなんですか」とか「あなたの旦那さんは誰ですか」「誕生日はいつですか」とか。
まるで幼い子供にするような質問をする。
それをわたしは、ぼんやりと聞いているだけ。
あとは「さくらさん」の腕や肩を、わたしがマッサージしてあげるのだ。
マッサージも嫌い。
小さくなった肩なんて、痩せこけた骨みたいな腕なんて、触りたくない。
……祖母が、明日にでも消えていなくなってしまう気がするから。
2時間くらいして、母が「そろそろ帰ろうか」と言ったので、わたしは祖母に「さくらさん、またね」と挨拶をした。
この瞬間が一番嫌いだ。
だって、祖母が泣くから。
わたしのことも母のこともわからないのに、帰ってしまうのが淋しいのか、いつも微笑んだまま涙を流すのだ。
ここに来ると、別れが切なくて、忘れられてしまったのが淋しくて、祖母に迫った死が怖くて、いつも胸が苦しくなる。
わたしはおばあちゃん子だった。
だから、「さくらさん」に会うのは辛い。