魔法の鍵と隻眼の姫
咀嚼しながら首を捻ると立ち上がったミレイアがにっこりと見上げてくる。

「やっぱりあの時は疲れてたんじゃない?」

「そうかあ?」

だとしたら相当疲れてるだろうミレイアが酸っぱい顔をするはずだが美味しそうに頬を抑えていた。
やっぱり納得いかずに首を捻った。

「さあ、最後の試練は屋上になる。参るぞ」

モリスデンに従い皆はヴァルミラの部屋を出た。

「あ、ちょっと待っててくれ」

最後に部屋を出ようとしたラミンが振り返りヴァルミラの元に戻ると小皿の上に置いていたはずのモッコウの実が無くなっていた。

「消えてる……」

ヴァルミラが受け取ってくれたのだと確信したラミンは残されたハンカチを手に取るとじっとその美しい顔を見つめた。

「ほんとに俺があんたの息子の生まれ代わりなら見守っていてくれ。今度こそ世界を救ってみせるから」

前世の記憶なんて何一つ無いがヴァルミラと縁があるってのは感じる事が出来る。
昨日までの迷いは無い。
固い決心を告げて部屋から出て行った。

最上階へ到着すると強風に髪がなぶられる。
空は先程よりも黒く渦巻き、魔女の加護があるはずのこのシエラ王国も覆われていた。

「あの黒い雲は急激に増殖して、もう魔法も結界も利かない。ノアローズも今頃雲に覆われているじゃろう」

モリスデンが悔しそうに言う。
夜よりも暗いまさに暗黒の世界。
強風に煽られる髪を押えながらノアローズがある方向を見つめたミレイアは目を瞑り今頃固唾を飲んで空を見上げているだろう残してきた家族の事を想った。

モリスデンが何かを唱え持ってる杖をこつんと床に打ち付けると先ほどまでの強風が止まった。

「この屋上だけは強風が吹かないように結界を張った。しかしそれもいつまで持つかわからん。さあミレイア、ラミン、心の準備は良いか?」

「お、おい、ちょっと待て。そういや肝心の鍵は?どこに行けばいいんだ?武器は?だいたい何と戦ってくればいいんだ?」

「・・・・」

焦ったラミンが矢継ぎ早に問い質すとモリスデンは目を閉じ髭を撫でる。

「ラミン様…どう戦ってなぜ雲が霧散したかは伝えられてないんです。何をすれば世界が救われるのかも…」

何も言わないモリスデンの代わりにキースがおずおずと話難そうに言うとラミンは驚愕。

「はあっ!?」

「鍵はお前が持っておる、どこに行くのかは分からぬがきっとあの雲の中心じゃろう。しかし何と対峙し戦うのかはそこに行った者しかわからぬ」

「モリスデン殿は過去一緒に見てきて知ってるのではないのか?」

国王が難しい顔をする。
王国の文献でも過去どのように戦ったのか残っていない。
初代国王アストラはその事に関して一つも文献を残さず、誰にもその時の事を語らなかったという。
語り継ぎたくないほど恐ろしく後悔しかない戦いだったと窺える。

< 147 / 218 >

この作品をシェア

pagetop