魔法の鍵と隻眼の姫
上を向くと雲間にピカッと閃光が走りゴロゴロと地響きのような音が響いてきてミレイアは肩を竦めた。

「あの雲は雷まで発生するのか?」

「より集まってきた雲の摩擦で雷が発生しているのじゃ。もう時間はないぞ?ミレイア、眼帯を外すのじゃ」

「はい…」

「ちょっと待ってくれ、5分、いや、3分でいい。ちょっと時間をくれ」

神妙な面持ちで眼帯を外そうとしたミレイアの手首を掴み止めたラミンはモリスデンの返事も聞かずにそのまま端の方によるとミレイアの正面に立った。

「どうしたの?まだなにか?まさか怖じ気づいたの?」

「ちげーよ!…これ」

怪訝な顔のミレイアに咄嗟に否定するとヴァルミラの部屋に置いていったはずのハンカチを差し出した。

「ああ、ハンカチ」

「まだ旅の途中だ。ちゃんと持っとけ」

旅人の無事を祈って作られたハンカチ。
ミレイアはそれを受け取り刺繍をひと撫でするとラミンの手を取った。

「ラミン、手をそのままにしていて」

そう言うとミレイアはハテナ顔のラミンの右手首にそのハンカチを巻いた。
その手が少し震えている。

「…何してんだ?」

「ラミンを守ってくれるようにおまじない」

「これはお前のだろう」

「いいの、ラミンに持っていて欲しいの」

にっこりと笑い見上げてくるアメジストの瞳に一瞬見惚れ、はっとするとごそごそと自分のポケットをまさぐったラミンは自分の持ってたお揃いのハンカチを出すとミレイアの手首を持ちそのハンカチを巻いた。

「ラミン?」

「……戦う相手もわからねえ、武器もねえ…。だがここまで来たらなるようにしかならねえよな。お前のことは俺が守るからこれはおまけだ」

得意満面な笑顔を見せたラミンにホッと口元を綻ばせた。

「ありがとうラミン。信じてるわ…」

見つめ合ったその瞬間にドゴーーーンと雷が落ちてバリバリと辺りを電気が走った。

「きゃっ…!」

「くあっ!」

ミレイアが耳を抑え身を屈めた時、途中まで解かれていた眼帯の紐が緩み付いていた青い宝石がパリンと割れた。

ラミンも一瞬よろけどくんと胸が大きく跳ねるとカッと体が燃えるように熱くなり胸を抑えた。
これは龍の祠でなった症状に似ている。
嫌な脂汗をかきながらミレイアを見ると呆然としたような表情で立ち尽くしていた。

「小娘…?」

その時ポトリと落ちた眼帯により顕になった右目を初めて見たラミンは息を飲む。
赤黒く光る右目。
そこから絶えず黒い霧がもやもやと立ち込めまとわりつくような嫌な空気が辺りを包む。

「おい、大丈夫か?うっ…!」

右手で胸を抑え苦しい息を吐きながら左手をミレイアに伸ばした時、ズキン!と全身が軋むように痛みが走り右手がボウッと光った。
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