魔法の鍵と隻眼の姫

闇との戦い

「う…ここは?」

一瞬のうちに何処かへ飛ばされたラミンはまとわりくうような空気が重くのし掛かってきてふらつきながら顔を上げるとそこはどこまでも続く闇。
広いのか狭いのかもわからない。
手を伸ばしてみても何も触ることが出来なかったが下は平らなようで歩く事が出来た。

ふと右手に目をやると暗がりで淡く光っている旅人を守るハンカチ。
手首をハンカチごと左手で握りしめた。

「あいつ…小娘は何処に?」

闇雲に探し回っても何処に行き着くのかわからないがじっとなんてしてられない。
ラミンはくるりと一回転して何か無いかと探し一瞬小さな光りが見えた気がした方向に歩き出した。

暗闇を躊躇無く歩いていくといつの間にか目指していたはずの光りは消えていてかわりに赤い光りがあちこちで点滅するように光っていた。
ゴロゴロと地響きのような音も聞こえ、それは雷で今雲の中に自分はいるのだと気付いた。

体は重いし一体何処に向かっているのか方向感覚が麻痺してきた頃、ボウッと目の前に白い光りが浮き出て眩しさで目を背けた。

光りが収まりゆっくりと目を向けてラミンは唖然とする。

「あんた…」

『我の血を受け継ぐものよ。いや…我の息子の生まれ代わりよ。とうとうここまで来てしまったのだな』

目の前に透けてしまいそうなうっすらとした姿で宙に浮いていたヴァルミラがいた。

「とうとうって、やっぱりあんた俺をここに来させたくなかったのか?」

『…息子、アドラードの死は我にとって自分が死ぬよりも辛く悲しいことだった。アドラードよまたお前は死に急ぐのか?』

「俺はアドラードじゃない、ラミンだ」

悲しそうな顔で見つめてくるヴァルミラを真っ直ぐ見つめ返すと腰に手を当てふんと鼻を鳴らす。

「だいたいアドラードとやらは800年も生きたんだろ?十分生きてんじゃねーか。それに俺は死にに来たんじゃない、生きるためにここに来たんだ」

『アドラード…』

「だから俺はアドラードじゃねえ」

『…そなたはアドラードの魂を持って生まれた。前世の記憶を何も覚えておらんのか?』

「前世の記憶なんて一つも無い」

『ならば思い出させてやろう、お前がどんなに不毛な死を遂げたのか…』

スッと出した人差し指がラミンの額に触れると、うっ…!と呻き声を出したラミンがよろけ頭を抑える。

「ううっ何だ、これは…」

頭の中に走馬灯のように次々と流れてくる映像と共にその時の感情までがなだれ込んでくる。

生まれ穏やかな生活、人間への興味、母の反対を押しきっての期待に満ちた旅、父との初めての対面、父の片腕となり国を動かす苦悩、最愛の娘との恋、結婚、家族が増えたことの喜び、子の成長を慈しみ、父の死の悲しみ、断腸の思いだった家族との別れ……

「う、うううっ」

崩れるように片膝を付き頭を抱えるが尚も映像と感情が流れ込んでくる。

苦しい…頭が割れそうだ…。

再び迷いの森での生活、度々訪ねてくる懐かしい子孫たち、ぱったりと来なくなった寂しい100年、黒い雲の脅威、再び人間界に訪れ、アストラと出会い、迷いの森での共同生活、年が離れていても育つ友情。
絆を深め共に戦うと誓い黒い雲に挑んだはずだった…

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