魔法の鍵と隻眼の姫
…………

「馬鹿言うなって…そんな覚悟…」

「でもラミンは違うわ。きっとあなたのお父様たちはラミンが生きて帰ることを信じている」

真剣なミレイアの眼差しに本気だと知るとラミンは手の力を抜く。

覚悟…死ぬ覚悟…。

それは…自分も覚悟してここに来たはずだ。

「それでも、俺たちは生きて帰るんだ!」

カッと見開いたブルーグリーンの瞳が一瞬光り、両腕を掴みミレイアを立たせ抱きしめた。

「ラミン…」

『かくご…カクゴ…』

『カクゴトハナニ?』

「人間は生まれ変わる、平和な世界を作る」

壊れたおもちゃのようにカクカクと動く霧のミレイアにラミンが本物のミレイアを抱き締めながら静かに言うと、霧のミレイアの姿がしゅううう~っと霧散するように消えていった後にカランと音がして足元に黒い剣が落ちていた。

「これは…」

ラミンの腕の中から振り向きミレイアが黒い剣を凝視する。

霧のミレイアにお前の覚悟を見せてみろと言われている気がした。

腕を緩めたラミンは再びミレイアの肩に手を置くと覗き込むように目を合わせた。

「小娘良く聞け。今俺の痣だった龍が雲を食べ尽くそうとしている」

「え?」

目を丸くするミレイアに真剣な眼差しで見つめ返す。

「雲を食べ尽くした龍は俺の体に戻ってくる。そしたらあの剣で俺を刺せ」

「なっ、何言ってるの!?」

腕に縋り悲鳴のように声を上げるミレイアを抑え込むように手に力を込めると尚も目を合わせ言い聞かせるようにゆっくり言った。

「1200年前、同じ状態になった時、アストラはアドラードを刺せずに躊躇してる間に黒い霧に飲みこまれそうになって失敗したんだ。あの剣で俺を刺せば全てが終わる」

アストラは信じきることができなかった。
アドラードも、自分のことも…。
自分が刺した剣でアドラードが死に行く姿を見たくなかった。

「そ、そんな…ラミンは生きて帰るんだって言ったばかりなのに、自分だけ死ぬつもりなの!?そんなのいやっ!!」

「落ち着けって!」

暴れ出すミレイアを抑え抱きしめたラミンは背中を摩った。
肩が震え俯くミレイアの瞳から涙が零れる。

「あの剣で俺を刺したって俺は死なねえ、何度も言ったろ?」

「…」

顔を覗き込もうとするとふいっと逸らされた。
怒らせてしまったかとため息を吐いたラミンはミレイアの頭を撫で座らせた。

「まあ、座れ。まだ時間はある」

そう言うとミレイアを置いて後ろに歩いて行くラミン 。
カチャと音がして戻ってきたラミンの手には先ほどの黒い剣。
それを座るミレイアの前に置いて自分も胡坐をかいて目の前に座った。
びくっと肩が揺れ剣を見ないように顔を背けるミレイア。


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