魔法の鍵と隻眼の姫
薄目で睨むミレイアにたじたじのラミン。
こいつ、俺よりだいぶ年下だよな…?
大人しそうに見えて年上にも物怖じしない物言い。
この国ではあり得ない態度だ。

「お前、もしかして二重人格?」

「はあ?失礼ね!そんなんじゃないわ!!」

目くじら立てて腰に手を当てるミレイアはやっぱりさっきのお淑やかさはどこにもない。
しゅんと俯き大人しくなると口を尖らせてますますさくらんぼみたいに見える唇。
ラミンは艶めいたその唇から目が離せない。

「私にとってお父様お母様、お兄様たちとモリ―だけが味方だった。周りのみんなは私を恐れ避けていく。あからさまに悪口を言われたこともあるわ。命を狙われたことも…。守ってもらうには私は大人しく従順でなくてはならなかった。幼いころからの防衛本能みたいなものよ。だからお兄様たちに本当の私は見せられない。こんな跳ねっかえりだなんて思われたら嫌われるわ…」

「そんな、嫌われることはないと思うけど?」

あの兄二人は確実にミレイアを溺愛している。王と王妃もだ。
逆に従順なミレイアより元気そうに見える今の方が喜ぶんじゃないだろうか?
どんなわがままも聞き入れそうな勢いで…。

「と、に、か、く!世界を救って、困っている人々もお父様も助けたいの!私ができることなら何でもするわ!戦の無い世界にしたい!悲しみに暮れる人々の心が、一番、痛いの…」

急に眉を顰め涙をこらえるミレイアにラミンは慌てた。

「え、おい、さっきの勢いはどうした?!」

ぐすっと鼻をすすり涙を拭いたミレイアはスッとまた威厳のある表情をする。

「お願い、ラミン。私に協力して」

真っ直ぐに射抜く瞳に目を見張ったラミンは頷いた。

「・・・わかったよ、協力してやる。その前に…」

目を輝かせて喜ぼうとしたミレイアに手を伸ばした。

「その右目見せてくれ、見てみたい」

ハッとミレイアは右目を手で隠して後ろに後ずさった。

「だめよ!この眼帯を取ったらあなたは恐ろしい目に合うわよ!この眼帯は魔法で封印してあるの、絶対に触らないで!」

叫ぶように必死で言うミレイアにラミンは気まずくて伸ばした手を頭にやってポリポリと掻く。

「わ、悪かったよ、もう見ようとはしない。だから、そんな顔するな」

「へ?」

自分がどんな顔をしているかわからないミレイアは変な声を出す。
ラミンには目を潤ませて怖がるミレイアの顔を見るのが辛く思えた。

なぜか、この娘に惹かれる。
それは見た目の美しさから?

いや、内に秘める強さか、時に顔を出す弱さか…。

陽が傾き、雲間から覗く夕日に染まるミレイアの顔を見てまた胸がドクンと波打つ。

「・・・・」

ラミンは胸を押えキョトンとするミレイアの顔を見つめた。





< 16 / 218 >

この作品をシェア

pagetop