魔法の鍵と隻眼の姫
夕方着いたターコイズ村はあの時よりは落ち着いていて人々が行き交うが静かだった。

そうか…あの時は祭りがあったな。

そんなことを思い出しながら自然と向かった先は以前泊まった宿。

「二部屋ね、あいよ」

空いているのか前回とは違いすんなり女将が鍵をくれる。
奇しくも一つはあの時と同じ部屋の鍵で一瞬またミレイアの顔が浮かんだ。

案内するよと言った女将に分かるからと断って階段を上がろうとすると、それを呼び止める女将。

「そういやあんた1年くらい前にも来たことあるね?ちょうど祭りがあった頃」

「…ああ、よく覚えていたな」

「そら、その珍しい白い髪にイケメンとくりゃ覚えているさ。あん時は片目の可愛い女の子と一緒だったけど、今度は可愛い男の子と旅かい?」

「か、かわっ…」

可愛いと言われたトニアスは恥ずかしくて絶句。
ラミンはそんなトニアスを見てぷっと小さく吹き出す。

「あんたあたしの好みだよ。特別にこのハンカチのお守りあげる」

ウィンクして差し出されたのはこの村特産の刺繍の入ったハンカチ。
旅人を守ると言われる人気の品だ。

呆然としてそのハンカチを眺めているとラミンにつつかれおずおずと受け取った。
そのハンカチには黄色の糸で花の刺繍が施されていた。

部屋に向かいながらじっとハンカチを見ていたトニアス。

「これ、ミレイアの部屋に…」

「ああ、ここで貰った」

ミレイアのベッドの横のチェストに置いてあったハンカチをラミンも気付いていた。
青い刺繍の入った少し茶色く汚れていたそのハンカチはラミンと交換したときのまま。
あの汚れはラミンの血液で洗っても取れなかったのだろう。
実はラミンも赤い刺繍の入ったハンカチをいつも持ち歩いていた。

「……」

二人は旅人を守るハンカチもミレイアを守ってはくれなかったかと思う。

一瞬でも黒い霧の人型から守ったのはだれも知らない。

暗がりで光っていた光りもラミンは忘れていた。

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