魔法の鍵と隻眼の姫
「そうかい、あのお嬢さんは一緒じゃないんだねぇ、あの時貰った軟膏が効いて今じゃ腰も痛くなくて畑仕事も難なく出来るからね!いやいやあの時は世話になったよ」

「ミレイアの軟膏ですね?あれは痛みなら何でもたちどころに治る万能薬ですからね!」

お茶を出しながらミレイアの事を感謝するトレニーに嬉しくなったトニアスが嬉々として言うとトレニーは一瞬立ち止まる。

「ミレイア…そうかい、あのお嬢さんはミレイアと言うのかい。世界を救ったという王女様と同じ名前だねぇ…」

名も聞いていなかった一時の宿を提供しただけの旅の者たち。
懐かしむように言うトレニーははたと気付く。
疎まれていた異色の目を持つ王女が救世主となりこの世界を救った。
それはどこに行っても噂される真実。
ノアローズ王国の長い黒髪の王女だという、ミレイアの名も誰もが知っている。

あのお嬢さんは長い黒髪に綺麗な顔に似合わない眼帯をしていた。

「あのお嬢さんは…もしや…?」

ラミンを見ると一瞬悲しそうな顔をして小さく首を振った。
何も言うなと言われているようで困ったように眉を下げるトレニー。
あの時、口さがなく王女の悪口を言ってしまった…。

「そろそろ行こうか」

徐に立ち上がりトニアスの肩を叩いたラミンは出口へと向かう。

「え~おじさんもう行っちゃうの?」

「ああ、まだ旅の途中だからな」

つまんなそうなライオネルに笑いかけ頭を撫で外へと出るラミン。

「あっ、じゃあお茶ご馳走様です。妹がお世話になりました。ミレイアに代わりお礼を言います」

優雅に礼をするトニアスにトレニーは固まった。

「お、お兄さんでしたか…」

「はい。ミレイアは今は来れないですがトレニーさんが軟膏を喜んでいたと必ず伝えますね」

にっこりと笑うこの青年はミレイア王女の兄ということはノアローズの王子様。
恐れ多い人を家に招き入れてしまったとたじろいたトレニーだが屈託なく笑うトニアスに力が抜けた。

「…そうですかい…本当に良い物を頂きました。そう言えばお兄さんはどことなくあのお嬢さんに似てますねぇ」

「えっ?そうですか?ふふっ、嬉しいです」

優しく笑うトレニーにはにかみ頬を染めて外に出た。
既にウォルナーに乗っているラミンに続きジュリアールに跨る。

「じゃあな、ばあさん、坊主。元気で」

「あ、ああ、また、来てくれることはあるかね?」

「今度はお姉ちゃんも一緒に来て!僕の作った野菜を食べさせてあげるよ!」

「そうだな…また、いつか」

ニコリと笑い手を挙げ去っていく後ろ姿。
あのお嬢さんは本当に王女様だったのか聞きたかったが白銀の髪の男は何も教えてくれないだろう。

王女様ならあの時本人の前で悪口を言ってしまってきっと悲しい思いをしたことだろう。
それでもあの王女様は優しく接してくれて軟膏を塗ってくれた。
心優しい美しいお嬢さんだった。

また、いつか、立ち寄ってくれることがあれば直接謝りたい。
そして、世界を救ってくれたお礼を言いたい。

「ばいば~い!またね~!」

大声で叫ぶライオネルと一緒にトレニーはいつまでも手を振った。
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