魔法の鍵と隻眼の姫
この町の中心地にある飲み屋は昼間にもかかわらず賑わっていて満員。
目深にフードを被ったミレイアの手を引いてカウンターにいる店主に聞いてみる。

「ここにランドルというやつがいるって聞いたんだが居るか?」

「ああ?あんたあんな爺さんに用なのか?珍しいこともあるもんだな、ほら、あそこで飲んだくれてる奴がそうだ」

店主の顎髭が店の奥を指し示す。
そこには二人用のテーブルに何本も酒瓶が乗っていてテーブルに突っ伏す老人の姿。
近寄ると辺りは酒臭く、ミレイアは思わずうっと口元を隠す。

「あんたがランドルか?」

「ん、なんじゃあ?わしに用かぁ?」

起き抜けに酒を煽るランドル。
ラミンは空いてる椅子を引いてミレイアを座らせると自分は小さなテーブルに両手を着きランドルの顔を覗き込む。

「結界が張ってある祠に行きたいんだが、あんたが詳しく知っていると聞いた。教えてくれ」

「むむぅ、あんたらものずきじゃなあ、あんなとこに行きたいとは~肝試しならやめておけぇ?」

目の据わった瞳が二人を捉える。

「そんなんじゃない。調べたいことがあって俺たちはそこに行きたいんだ。早く教えろ!」

気迫ある顔をランドルに近付けると口元を引きつらせて引き気味にラミンを見上げる。
早くこんな喧騒から出ないとミレイアがもたない。
辛そうに肩を上下させながらもなんとか我慢しているミレイアにラミンも焦る。

「わーたわーた、焦るでない。そうさなぁ、ここから南の町外れに大きなモッコウという木がある。ヒック…で、今頃は赤い実を付けてるから見れば解るだろう。こう、ヒック、小さな実がいくつも房になってなぁ、食べるととても酸っぱいそうだが滋養強壮に、ヒック、イイらしいぞい。大きな葉っぱで雨避けにも使えるんじゃわい。んで、ヒック、え~その脇に二本の獣道があるんじゃが…ああ、ヒック、どっちに行けばいいんだったかのぉ?」

「ええい!まどろっこしい!早く言え!」

のんびりと説明し出したランドルにイライラしながら聞いていたラミンはぷつっと切れてランドルの胸ぐらを掴んだ。
バタバタと酒瓶が倒れ周りも何事かと注目して一瞬静まり返った店内。
ランドルは胸ぐらを掴まれたまま、構わず「ええっとぉ右いや左だったかのぉ」と思い出そうとしている。

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