魔法の鍵と隻眼の姫
「ラミン、焦らないで。私は大丈夫だから」

ラミンの胸に手を当てミレイアが言うと、焦りから来るイライラがすっと消えた。
力が抜けた手が緩みランドルはストンとまた椅子に落ち着く。
なんだなんだと見ていた客たちも興味を無くしたかのようにまた話し出す。
ミレイアの椅子に手を掛け顔を覗き込んだラミン。

「お前、今力使っただろ?」

小さな声で言うとつんとそっぽを向いたミレイア。

「あなたが焦って醜態晒すからでしょ。お年寄りには優しく接しないと。小さいころに習わなかった?」

「ああん?」

ラミンが凄んでもナシのつぶて。青い顔をしながらも聞く耳持たないミレイアにため息が出る。

「おお、そうじゃ!左、左に道なりに行くと大きな岩があっての、そこを回り込むと小さな洞穴があってその中に祠があるんじゃわい。」

「やっと思い出したか爺さん。で、その祠は何なのかは知ってるか?」

「ふふふ、聞いて驚くなぁ?あの祠は龍の化身が祭ってあるって話だ」

「龍?」

怪訝な目でランドルを見るラミン。
龍は伝説上の生き物。魔法使いの使役とも言われている。

「そんなまた魔法使いよりも空想めいた話…」

魔法使いはモリスデンがいるから単なる空想とも言えないんだが何とも信じがたい。

「信じるも信じないもお前さん次第じゃわい。わしの知ってることはそれぐらいじゃ。あそこには魔物も住んでると言うから行くのは止めといたほうがいいんじゃないのかのう?」

ん?と片眉を上げ他人事のように言うランドルにもう聞くことはないとミレイアを立ち上がらせたラミン。

「あんがとよ爺さん、これはほんのお礼だ」

じゃらんとコインをいくつかテーブルに置き踵を返す。

「おおっこれはこれは、こんな話でこんなにもらえんのかい?うまい酒が飲めるのう」

嬉々として目を細めコインを握った手をミレイアの手が包んだ。

「ありがとうランドルさん。あなたのご健康を祈ります」

華奢な白い手に包まれフードから覗く綺麗なアメジストの目に見つめられたランドルはほぉっとため息をついて見とれた。

こんなかわいい娘は初めて見たわい…。

スッと離れラミンの後を追うその後ろ姿を呆けた顔でいつまでも見つめていた。


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