魔法の鍵と隻眼の姫
町近くに差し掛かると歩調を緩めゆっくりと進んだ。
どこに泊まろうかとラミンが思案していると、鞄をガサゴソ漁りハンカチに包んでいた実を一粒食べたミレイアが驚きの声を出した。

「美味しい!この実とっても甘いわ!ランドルさんは酸っぱい実だっていってたのに!ラミンも食べてみて?」

後ろを振り向きあーんと差し出された手には葡萄くらいの赤い実が摘ままれている。
ラミンは本当か?と訝しげな顔をしながらぱくっとその実を食べた。

「うっ!酸っぱっ!」

レモンのようにこの上なく酸っぱく感じたラミンは口をすぼめて悶絶。
え?何で?と思いながらミレイアはもう一粒食べたがやっぱり甘い。
試しに興味津々でミレイアの回りを飛んでいたノニにもあげてみたが美味しそうに頬張っている。

「たまたま酸っぱいのに当たったのかな?はい、もうひとつどうぞ?」

もう一度振り向きあーんと差し出された手をラミンは苦笑いでやんわり断った。

「あ、いや、もういい」

「そう言わずにもう一度試してみて?ね?」

上目遣いでお願いされて仕方なくうーんと唸りながらぱくっと食べるとやっぱり酸っぱい!

「すっ~~う~う~~っ!!!」

もはやこの酸っぱさに口を押さえ言葉にならない絶叫をしたラミンは何とか飲み込む。
次々唾液が出て来て口をすぼめてなんとか堪えた。
お、俺偉い!と吐き出さなかった自分を心の中で誉めた。

「うっ!はぁー…、酸っぱ過ぎんぞこれ!どこが甘いんだよ!」

「え?おかしいな、すっごく甘くて美味しんだけど?」

また一粒取りミレイアは半分だけかじってみるがやっぱり甘い。
種も無く食べやすいのだがなぜラミンだけ酸っぱく感じるのだろう?
首を傾げ半分になった実をまじまじと見つめているとその手を掴まれ後ろへ持ってかれる。

「三度目の正直!」

ぱくっと指ごと食べられ唖然とするミレイア。

「う~~~やっぱり酸っぱい!」

手を握られたまままた悶絶するから力が入っていて結構痛い。

「ちょ、ちょっとラミン!」

「あ、悪い」

パッと離された手を擦る。

「たっ…、食べ掛け食べること無いでしょ!?」

「何でだ?お前の食べ掛け食べても酸っぱいぞ!?」

前を見たまま叫んだミレイアは顔が熱いのを感じる。
ラミンはミレイアのこともお構いなしでなぜ自分だけが酸っぱく感じるのか納得いかずに憤慨してる。

「俺の味覚がおかしいのか?」

ショックそうに言うラミン。

「ま、まあ、滋養にもいいって言ってたから体にはいいと思うの。もしかして疲れてるから酸っぱく感じるのかも知れないわよ?」

うーんと唸って腑に落ちない様子のラミン。
疲れている人には酸っぱく感じるのは強ち間違いじゃないかも知れない。
宿に着いたら早々にラミンには安んでもらわなきゃと思うミレイアは残りの実は馬たちにもあげて大事に食べようと、またハンカチに包んで鞄にしまった。
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