魔法の鍵と隻眼の姫
「だいぶ時間がたったな。きっともうここに用はない。戻るか」

「ええ…」

ここに来たことは無駄足だった、とは言いがたい不思議な体験をして謎が深まる中、大きな水晶の間を通るときに一度振り返ると社がドシャッと崩れ落ちた。
まるで役目が終わったかのように。

「………行こう」

何も言わず頷いたミレイアの手を取り出口に向かった。
二人が来た道を戻り外に出るともう辺りは暗い。

振り向くと大きな岩の結界が解かれ闇に包まれていた。
結界も守るものが無くなり役目を終えたということだろうか?

近くに小さな結界があり、その中でのんびりと草を食む2頭の馬。
近寄るとノニが辺りを飛んでいた。

「ノニ、遅くなってごめんね?何も無かった?」

うんうんと頷くと結界を解き二人の回りをくるくると回りミレイアの肩に止まった。

「もう闇も深い、ここにいるのは危険だ。町に戻って宿に泊まろう」

「そうね……」

また人混みに入って負の感情に取り巻かれるのも怖かったが昨日魔物に襲われてラミンがまた傷つくかもしれない。危険に自ら立ち向かって行くラミンを頼もしくも思うがもうあんな傷つく姿を見たくない。
早速フィーダに乗り込もうと顔を撫で手綱に手を掛けたがまた阻止されあっという間にウォルナーに乗せられた。

「ラミン、私もう大丈夫だから!」

「さっき力使っただろう、無理すんな」

サッと後ろに乗り込んだラミンはグッとミレイアの腰に腕を巻き引き寄せる。

「………」

力を使っても珍しく熱も疲れも感じなかったが既に定位置のようになったその場所をミレイアは意固地に降りるとは言わなかった。

「ごめんねウォルナー重いだろうに宿に着いたら人参あげるからね」

「こいつなかなか馬力があるから大丈夫だろ」

ウォルナーのたてがみを撫でながらミレイアが言うとラミンが口を挟む。
もう、とミレイアはこっそりため息をついた。

林を抜けモッコウの木まで戻って来た。
木にお礼を言いたいとミレイアが言うと木の側でウォルナーから降りるとモッコウの木に手を置いた。

「モッコウの木…ありがとう。あなたの実で社の扉が開いたわ。何の為の祠か解らないけど、きっとこの旅に必要だったのよね?」


まさか木がその為に実をくれたなんて思えないラミンは、んなわけないだろうと、ウォルナーに背を預け腕組をして立っていた。
話しかけるミレイアに答えるようにさわさわと木の葉が揺れた。
するとまたミレイアの肩にぽとりと一房の実が落ちてきた。

「また私にくれるの?ありがとう!」

「まさか…な」

喜ぶミレイアにポツリと呟いたラミン。
遠くでウオーンと魔物の遠吠えが聴こえる。

「小娘もう行くぞ」

有無も言わせずミレイアをウォルナーに乗せ自分も乗ると足早にその場を後にした。
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