魔法の鍵と隻眼の姫
いちゃいちゃと腕を組み前を歩く二人に面白くないミレイアはフードを目深にかぶりため息をつく。

「おい、小娘、俺から離れんなよ!」

後ろを振り向きミレイアが付いてきてるか気が気でないラミン。
ツンと横を向き無視を決め込んだ。

「小娘なんてひどい言い様ね?ちゃんと名前で呼んであげないの?」

「ん? ああ、名前で呼んでも不機嫌になるんだよこいつ」

私の名前じゃないし…。

余計不機嫌になるミレイア。
ふーんと後ろのミレイアに目をやるアマンダはこっそりと睨み、ラミンに満面の笑みを向けた。

「護衛も大変ねぇ?あ、ここ、ここ、このお店よ」

賑やかな声が聞こえる大衆酒場。
またミレイアの体調が悪くなるんじゃないかとラミンは振り向き小声で言った。

「お前、体調は大丈夫か?昼間みたいに具合悪くはないか?」

いそいそと中へ入って行こうとするアマンダを残し心配気な声を出すラミンに目を丸くする。

「え、ええ、今のところは…、そう言えばあの祠から帰ってきてから何も感じないわ」

「そうなのか?何かあそこに行ったことで変化が…?」

首を傾げるミレイアと顎を押え思案するラミン。

「ちょっとぉ何してるの?早く入ってよ!」

戸口で叫ぶアマンダに急かされ話を中断し中に入った。

「油断はするなよ?少しでも具合が悪くなったら俺に言え」

こっそりと言ったラミンにこくんと頷いたミレイアはふっと唇を綻ばせた。
ちょっとは心配してくれるラミンに心がむず痒い。

入った途端にワーッと歓声が上がりアマンダに群がる男たち。

「アマンダ!明日行っちゃうんだって?」
「悲しいなあ!このままこの町に住んでくれよ!」
「アマンダの踊りが見たいよ!踊ってくれ!」
「こっちに来て一緒に飲もうぜ!」

一躍人気のアマンダに戸口に立ったままのラミンとミレイアは唖然と見ていた。

「連れが居るから今日はダメ、後で最後の踊りをしてあげるわよ」

アマンダはそう言いラミンの隣に来て腕を組むと、店内にいる男たちの視線がラミンに集中した。
白銀の髪にブルーグリーンの瞳、鼻筋の通った整った顔。
ここにいるどの男たちよりも背が高く眉目秀麗な男に引け目を感じる男たち。

「だ、誰だその男!」
「ま、まさか、アマンダの…」

「そ、あたしのいい人」

そう言ってラミンの腕をとるアマンダ。

「だーーーっ?!!!」
「嘘だーーー!」
「お、おれたちのアマンダが~~~!」

嘆き叫ぶ男に、奇声を発する男に、項垂れる男…
アマンダの凄まじい人気ぶりに怖くなってラミンの後ろに逃げたミレイア。

「そ、そんな男のどこが良いんだ!あんた俺と一緒にいたいってこの間言ったじゃないか!?」

「ひ!」

詰め寄ろうとする男がアマンダに手を伸ばした。
凄い剣幕でアマンダも一瞬慄くがその腕を掴み軽くひねり上げたラミン。
きらりと光る冷たい目が男を睨む。

「おい、やめろ」

「い、ててててっ!」

手をパッと放すと男はよろけてドスンと尻餅をついた。
痛そうに手首とおしりを交互に擦ってる。

「女に手を出そうなんて男の風上にも置けない奴だな、文句があるなら俺に言え!全部まとめて相手してやる」

ラミンの冷気に圧倒されて息を飲む男達。
アマンダもこんなラミンを見たことが無くて目を見開いた。
シーンと静まり返る店内。

「ラミン」

そっと背中のローブを引っ張ったミレイアに振り向いたラミンは一瞬で先ほどの冷気漂う雰囲気を消し去っていた。

「わりぃ、大丈夫か小娘」

こくんと頷いたミレイアの頭をポンポンと撫でる。





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