魔法の鍵と隻眼の姫
シャルーの横に座ったミレイアは同じテーブルに座る男たちをぐるりと見回した。

「まずは自己紹介。俺はシャルー、隣がアントニオ、フィールド、オクルド、シルビー。みんなこの町で農家や酪農をやってる。人相悪いけど気のいい奴らだから安心して?」

見た目も年齢もバラバラそうな男たちはいつもここに集う仲間らしい。
一斉ににこにこと見つめられる。
あまり人に囲まれ見つめられたことが無いから少し緊張した。

「は、はじめまして。私は…み、ミミです」

「ミミちゃん?かわいい名前だね?」

苦笑いのミレイア。
咄嗟に偽名が浮かばず結局ミミと言ってしまったことにちょっと落ち込む。

何処から来たのか、その目はどうしたのか、どこに行くのか、男たちから次々と質問攻めにあって目を回しながらもミレイアは丁寧に答えた。
嘘をつかなくてはいけないところは心苦しいが熱心に聞いてくるこの人たちに少しずつ緊張も解け他愛ない笑い話に笑顔も自然と出るようになった。
こんなに楽しくて笑ったのは久しぶり。
でも、ラミンの方を見ると人目も憚らずアマンダと抱き合うように談笑していて、時折目が合いそうになりその度に目を逸らし小さくため息をついた。

「ミミちゃんさ、さっき伝承に出てくる鍵を探してるって言ったよね?」

「はい、どんな鍵かは解らないんですけど歴史を紐解くためには必要らしくて探してるんです」

歴史の研究をしている師匠の命で伝承に出てくる鍵を探していると説明したミレイア。
師匠とはもちろんモリスデン。
そう言っといたほうが怪しまれずに済むだろうと作り話を思いついた。

「研究熱心なんだなあ」
「こんな若いお嬢さんを旅に出すなんてその師匠は鬼だな」

「お師匠の事を悪く言わないでください。知識が深くて優しくて何でも教えてくれるとても尊敬できる方です。」

「い、いいなあ。ミミちゃんにそんな風に言ってもらえるなんて。そのお師匠が羨ましい…」

にっこり笑い師匠を擁護するミレイアにシャルーがほうっとため息をついて言った。

「お前は無理だろ。なんせ勉強はてんでダメだからな!」

いつの間にか周りにも群がっていた男たちからドッと笑いが起きてシャルーは真っ赤になって肩をすぼめる。

「こ、これから勉強も頑張れば何とかなるだろ!」

何とか言い返すも恥ずかしいのか頭をくしゃくしゃと掻き回す。
ついついみんなと一緒になって笑ってしまったミレイアはくすくすと笑いながら頭を掻くシャルーの腕にそっと触れた。

「思い立ったが吉日と言います。今からお勉強頑張ればきっと学者でも何でもなれますよ」

「あ、うん。頑張ってみようかな…」

ミレイアの微笑みにドキリとしたシャルーはますます顔を赤くしやる気もないのに頑張ってみようなんて考えてしまった。
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