偽物の恋をきみにあげる【完】
一瞬そんな考えに至ったものの、あまりにくだらない妄想だとすぐに気づいた。

仮に喜多野課長がコタローくんだとしても、私を「南川月」だと知っている筈がないのだ。

いくら私の名前が月を意味するルナだからと言って、それだけで私を南川月だと思うわけがない。

馬鹿みたい。

コタローくんに会いたいからって、こんな妄想馬鹿みたい。

「じゃあ、お言葉に甘えます」

私は課長のお誘いを、ありがたく受けることにした。

課長に連れられ、駅から少し行った所にある、小さなビルの地下へと降りた。

「ここ、部長に教えてもらった肉バルなんですが、なかなか美味しいんですよ。及川さん、お肉お好きですか?」

その店の鮮やかな赤色をしたドアを開けながら、喜多野課長が私に尋ねた。

「ええ、お肉は大好きで……」

……あれ? この赤いドアって。

私は答えながら、とても奇妙な感覚を覚えた。

このお店、来たことがある気が……。

いわゆる既視感デジャヴというやつだった。

私はここに、いつ来たのだろう。
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