偽物の恋をきみにあげる【完】
私は驚いて、その声がした地上に視線を落とす。

──息が、止まるかと思った。

なんで?

どうしているの?

よりによって、こんなタイミングで。

「なーにしてんの?」

大雅がこちらを見上げて笑っていた。

「……大雅こそ」

胸が詰まって、ちゃんと声が出ない。

「会いに来てやったぜ」

大雅は満面の笑みで親指を立ててみせた。

「お前がめちゃくちゃ会いたいとかいうからさ」

会いに、来てくれたの?

私のために?

……駄目だ、こんなの泣く。

視界が潤んだことに気づいて、私は慌てて手で顔を擦った。

「何お前、泣いてんの? 嬉し泣き?」

「ちがっ! 鼻水だもん!」

「あはは、きったねー」

「うるさい! てか、早く来れば?」

「はいはい。今行くから、部屋入ってちゃんと待ってな~」

大雅は楽しそうに言って、アパートの階段の方へと姿を消した。

会いに来てくれた。

ただ会えただけなのに、心臓がやけに高鳴って、胸がいっぱいで、破裂してしまいそうだった。

ベランダで深呼吸していたら、すぐにピンポーンとチャイムが鳴った。

私は慌てて玄関に向かい、ロックを外してドアを開ける。

「いい子にしてた? かわい子ちゃん」

おどけたように笑って両手を広げた大雅の胸に、私は迷わず飛び込んだ。

……もう駄目だ。

どうしようもないくらい、好き。
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