偽物の恋をきみにあげる【完】
よく考えてみれば、私は昨日、物語をプレゼントされた喜びで完全に舞い上がっていたのだ。

それに、あまりにロマンチックな表現にうっとりしてしまっていて、きちんと読めていなかったかもしれない。

だから今度は、一字一句漏らさないようにゆっくりと文章を噛みしめていった。

するとすぐに、その違和感を見つけた。

『きみはぼくがどこの誰なのか全く知らない』

……あれ? ここ、どうして。

どうして、「お互いに知らない」と書かないのだろう。

『今すぐにきみを抱きしめたくなった』

会ったこともない相手を抱きしめたいなんて表現は、いささかオーバーな気がする。

『まるできみの笑顔のよう』

彼女の笑顔を知っているような口ぶり。

『きみに触れたくて』

もし会ったことがないのなら、「触れてみたくて」ではないのか。

……触れたことが、あるから?

『会いに行くよ』

『どうか早くぼくを見つけて』

『しんじてるよ』


読み直してみて、わかった。

サユユの言った通りだ。

この男性は、女性のことを知っている。

それは、つまり……。
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