偽物の恋をきみにあげる【完】
「すさきって言いにくいね。すざきにすればよかったのに」

「そんなん俺に言われても知らんがな。てか、まじで何もない町じゃね?」

「確かに。大きな建物何もないね。でもこういう町、私好きだよ」

「俺もわりと好き」

あまり人通りのない町をのんびりと歩く。

今日は昨日よりもだいぶ暖かくて、いい散歩日和だ。

「どこに向かってるの? 生まれた病院とか?」

「いや、病院とかわからんし。とりあえず来たかっただけだし、海にでも行こうかと」

「海?」

「だって海しかねーからな。生まれ故郷の海見ながら、これまでの人生振り返ろうかな」

言っていることがまるで年寄りだ。

堤防沿いをしばらく歩くと、漁船がいくつか停まっている小さな港に出た。

「あっち行けば浜かな」

港を通り過ぎると、浜の入口があった。

果てしなく続くような長いくて高い堤防沿いに、テトラポットが無数に置かれている。

昔から高波が多い町なのかもしれない。

「とりあえず、堤防の上登ってみる?」

「うん」

堤防に作られた石段を登って、上まで登った。

「なかなか景色いいね!」

「うん。浜はきたねーけどな。昆布だらけ」

「えーワカメだよー」

私達は堤防の上に並んで座った。

なかなか気持ちいい。

潮の香りが鼻先をくすぐる。

「ねえ、瑠奈」

「ん?」

「俺のぶっちゃけ話、聞く?」

大雅はちょっと笑いながらそう言った。
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