偽物の恋をきみにあげる【完】
2日目の今日は、高知駅から電車に乗りこんだ。

ちなみに高知では、電車ではなく汽車と呼ぶらしいが、どう見ても電車だと私は思う。

「今日は完全に付き合わせちゃうけどいい?」

高知駅を出発してしばらくしてから、大雅がそんなことを言い出した。

「いいよ。てかもう電車乗っちゃってるしね」

「あ、確かに」

今日は、大雅が生まれて1歳までいた場所に行くんだそうだ。

それにしても、どうして今更、記憶もない自分の生まれ故郷を見たいと思ったのだろうか。

男のロマンってやつの仲間かもしれない。

私には理解できない。

「まじで何もない町だからね。たぶん漁港と魚市場しかない」

「へえ、漁師町なの?」

「そそ。あ、でも野球で有名な高校があるよ」

「えー私、高校野球わかんない」

「ですよねー。……ふぁぁぁ、ねむっ」

大雅は大欠伸をした。

「え、いっぱい寝たのに?」

「あー俺、乗り物乗ると眠くなんの」

「え、なにそれ怖っ。車運転できないじゃん」

「自分で運転してたらさすがに寝ねーし」

「え、私高速で意識飛んだことあるよ?」

「危なっ! てかお前なんで無事なの?」

「わかんない。豪運?」

などとくだらないお喋りをしていたら、電車が目的地に到着した。
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