偽物の恋をきみにあげる【完】
宣言通り、ちょうど10分後に駅前に着いた私は、キョロキョロと大雅の姿を探す。

行き交う人混みの中に、彼の姿はない。

「瑠奈、後ろー」

背後から聞き慣れた声がして振り向けば、すらりと背の高いアッシュグレーの髪の男がヒラヒラと手を振っていた。

程よく色褪せたジーパンに、ざっくりとしたオフホワイトのセーター、さり気なく羽織ったラクダ色の皮のジャケットがお洒落過ぎる。

大雅は今日も思わず見とれるほどイケメンだ。

もし彼が大雅ではなかったら、一生お近付きにはなれなかったかもしれない。

「ごめんね、変な上司に捕まってて」

「全然待ってないからヘーキ」

大雅は眉尻を下げてくしゃりと笑った。

「それより変な上司ってなに」

「女好きで有名な、うちの主任。なんか私、最近狙われてんの」

すっかり暗くなった少し肌寒い道を、私達は並んで歩き出した。

いつもならこのまま改札をくぐり、私の家に直行するが、今日はこれから外食なのだ。

だからデート。

「へえ、狙われてんだ? ふーん」.

大雅がからかうような視線をこちらに向ける。

「なによ」

「いや、ソイツずいぶん物好……いって!」

私が脇腹を軽くつねると、大雅は笑いながら大袈裟に痛がってみせた。

こんな関係は、10年前と全く変わっていない。

私達はあの頃も今も、こうしてじゃれ合うくらいには仲が良い。
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