偽物の恋をきみにあげる【完】
「仕事の話もしたいしさあ」

仕事の話がしたいから飲みに行こうって……。

それを上司が言うのは、さすがに職権乱用ではないのか。

駅に着く頃、やんわり躱すのも面倒になった私は、とうとう最後の手段を使うことにした。

「うーん。お気持ちは嬉しいんですが」

「なに?」

「私、彼氏がいるので、男性と2人でお食事はちょっと」

「彼氏、いないって聞いてるけど?」

……うちの職場、個人情報がダダ漏れだ、勘弁して欲しい。

「いや、本当にいるん」

「瑠奈!」

突然、大きな声が私を呼んだ。

「え」

今の声は。

キョロキョロと辺りを見渡す。

人混みの中、一際目立つアッシュグレーの髪。

私の目はすぐに、その声の主を見つけ出してしまう、いつだって。

「…………大雅」

駅前に立っていた大雅は、返事もせず仏頂面でこちらに向かってくる。

「大雅、どうし」

「すいません。俺、こいつと大事な話があるんで、連れていきますね」

私の言葉を遮り、平野主任に対してそう言い放つと、

「瑠奈、行こ」

再会してから今まで、決して握ったことのなかった私の手を、ぎゅっと強く握った。
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