偽物の恋をきみにあげる【完】
「ちょ、きみ何? え? 及川さん?」

戸惑う平野主任を置き去りにし、大雅は私の手を引いてさっさと歩き出した。

私も何が何だかわからない。

でも、初めて繋いだ手を、どうしても振りほどけなかった。

手を繋いでいるだけなのに、胸がきゅうっと締め付けられた。

何度もセックスしているのに、バカみたいだ。

コイツはただのセフレ、いや、その関係すら終わったかもしれない。

私はそれでいいはずだった。

こんなヤツがいなくても、私にはコタローくんがいてくれるから。

なのに、私は大雅の手を振りほどけず、あまつさえ嬉しいと思ってしまっているのだ。

私のカラダしか必要ないくせに、コイツはいつも、私の心を掻き乱す。

「ねえ、ちょっと。大雅、どこ行くの?」

手を引いたまま、勝手に駅の改札を通り抜けようとした大雅を呼び止める。

「瑠奈んち」

振り向いた大雅はそう一言答えると、改札にSuicaをピッとかざした。

言いたいことは山ほどあったが、仕方ないから私もスマートフォンを改札にかざした。

右手が塞がっているせいで、少し慌てて左手をクロスする羽目になって、なんかバカみたい。
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