偽物の恋をきみにあげる【完】
エスカレーターを上がる途中で、電車がホームに滑り込んできた。

「あれ乗るよ」

大雅に手を引かれたまま、慌ただしく乗車する。

「ねえ、私に大事な話って何」

電車が動き出してから、私はようやく尋ねた。

「大事な話? そんなこと言ったっけ」

しかし彼はしれっとそう答える。

「は? さっき主任に『コイツに大事な話があるんで』って言ってたよね」

「あー。あれは瑠奈がすげー嫌そうな顔だったから、助けようと思って咄嗟に」

「え、じゃあたまたま私を見かけて、助けてくれたの?」

なんだ、私のことを待ってたんじゃないのか。

心底ガッカリして、そしてガッカリしてしまった自分にも心底ガッカリした。

平気なふりをしていたのに、私は結局、何も割り切れていない。

「いや、たまたまじゃねーよ」

「え?」

「瑠奈のこと、待ってた」

……あーあ。

本当に、何も割り切れていない。

私の心臓は、「待ってた」の一言だけで、ドクンと大きく波打ってしまった。

悔しい。

「……あは。私のカラダが恋しくなったの?」

そんな気持ちを悟られたくなくて、精一杯冗談めかす。
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