偽物の恋をきみにあげる【完】
夕飯を済ませ、後片付けをしている間、大雅はベッドに転がって雑誌を読んでいた。

洗い物を済ませて近づいてみると、彼が見ているのはまた旅行情報誌だった。

「ねえ、やっぱり大雅、どっか行くの?」

「わ! また覗いたー、いやんえっちー」

「えっちって」

「ね、瑠奈も一緒に見る?」

あれ、前はこそこそ隠していたのに。

でも大雅がそう言って手を引いたので、私は隣に転がった。

「……四国? お遍路さんでもやりたいの?」

そう尋ねたのは、彼が見ているのが四国旅行のページだったからだ。

「いや、そんな信心深くないし」

「んー、じゃあ坂本龍馬マニアとか」

「日本を今一度洗濯致し申候、って?」

大雅は笑いながら言った。

「なにそれ?」

「龍馬の名言」

「わーすごい、マニアだ」

「マニアじゃねーし。あ、でも竜馬がゆくは読んだかな」

「大雅って小説とか読むんだ? 意外!」

そんな私の言葉に、大雅は得意げな顔を向ける。

「言っとくけど俺、文学少年だからな」

「いや、少年ではないよね」

「心が汚れなき少年だからいいんだよ」

何が汚れなき少年だ。

セフレ同然の恋愛ゴッコしているくせに。

悪い大人代表だ。
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