スイート ジャッジメント 番外編

「千尋。無視するな」

「何? あんた、もうすぐ試合でしょ? あっち戻んなさいよ」

 あっちと視線で示して言うちぃちゃんに、応じる吉沢くんは眉間にシワが寄っている。

「お前、何こっちいんの?」

「何って、私、桜庭と武田の対戦見たいもの」

「却下」

「や、ちょっと?! 痛いんだけど?!」

 短く拒否の意向を示した吉沢くんは、抗議の声を上げるちぃちゃんをものともせずに、ちぃちゃんを連れて行ってしまった。

「まぁ、吉沢も彼女にはちゃんと応援して欲しいよな」

 部内ではネタ的な意味で、そして無関係な女子の注目は桜庭な訳だけど、と実原くんは言外に言いつつ、「あれでも仲良いんだよ、一応」と付け足した。

 付き合っていることを知った上で見ても、ちぃちゃんと吉沢くんはあんまり付き合っているようには見えない。湊の全く隠さない愛情表現とどっちが良いのかは、よく分からない。

 もしも湊が私のことを徹底的に隠してたら、あんな風にやっかまれる事も無いだろうけれど、ああいう子が湊を囲むのを我慢しないといけない。試合をこんなにも間近で湊のドリンクボトルを抱えて見ることだってできない。……それはそれで、辛いかも。

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