俺の恋人曰く、幸せな家庭は優しさと思いやりでできている「上」
冷ややかな目で俺を見ながら、フィリップはクリスタルを放す。俺はクリスタルに駆け寄り、クリスタルは俺に抱きつき、怯えた目でフィリップを見た。

「攫うって…どういうことですか?」

クリスタルが戸惑ったまま言う。俺は、ただ黙ってフィリップを睨みつけた。

フィリップは俺には見向きをせずに、頰を赤らめながらクリスタルに話す。

「僕は、あなたと二年前に結婚するはずでした。しかしあなたは、そこにいるリーバス・ヴィンヘルムを選んだ。そして僕らの結婚は白紙となってしまった。僕との結婚を嫌がるなんて何故かと不思議になって、僕はこの二年間ずっとあなたを調べたんです。そして……いつしかあなたに惹かれるようになったんですよ」

「だから、私に会いに来たんですか?」

クリスタルが訊ねると、「そうです」とすぐにフィリップは答える。

「お忍びでここまで来ました。さあ、一緒にノール国へ行きましょう!何も不自由はさせません!」

そう言ってフィリップはクリスタルの手を掴み、無理やり引っ張る。

「痛いッ!」

クリスタルが悲鳴を上げたので俺は一旦クリスタルを離すと、クリスタルの手を掴んでいるフィリップの手をはたき、クリスタルの前に立つ。

「嫌がるクリスタルを無理やり連れて行ったら、あなたは立派な誘拐犯です。それに、クリスタルのことを色々調べたようですが、興味本位でそんなことをするのも犯罪ですよ?」
< 38 / 138 >

この作品をシェア

pagetop