フェイク×ラバー
「結婚式に着て行くので、できれば落ち着いて見えるものがいいですね」
ここは確実に婦人服専門店。
だというのにはじめは、実に堂々としている。
「他にご要望はございますか?」
「そうですね……。ああ、彼女の魅力を、より一層引き出すものが理想ですね」
「────かしこまりました」
女性ははじめの後ろで居心地悪そうにしている美雪を上から下まで見て、こくりと頷く。
「よろしければ、かけてお待ちください」
「ありがとう」
店内に設けられたスツールに腰を下ろし、はじめは足を組む。嫌味なほど長い足だな、と思わずにはいられない。
「君も座ったら?」
「ああ、はい、そうですね」
はじめの隣に座り、美雪は店内を見回す。落ち着いた雰囲気の店内には、現在、客がいない。棚に有名ブランドのバッグや帽子などが陳列されているところを見るに、ここはセレクトショップといったところか。
しかも、お高い方のセレクトショップ。
こういうお店は、本当に初めて。ブランド物を買うならゲームを買うわ! ぐらいの気持ちでいるので、この手のお店は不慣れの極み。
はじめはいつも、こういうところで服を買っているのだろうか?
「……よく来るんですか?」
「ここ、婦人服だよ。初めてに決まってる。──母に聞いたんだ。おすすめの店はあるか、って。そしたら、ここを教えられた」
「ああ、なるほど」
それを聞いて、納得できた。
確かに、はじめがこの店の常連だったら、ちょっとおかしい。
「この店なら、一式揃うだろうから」
「一式って」
「お待たせ致しました」
女性の声によって、美雪の問いは遮られてしまった。
「いくつかお持ちしましたので、ご覧いただけますか? サーモンピンク、ピンクベージュ、ネイビー、パステルブルー、ラベンダーカラーのものをご用意しました。結婚式とのことですが、お色直しのカラードレスはわかられますか?」
「ドレスは一着なので、色は気にしなくてもいいと思います」
「さようでございますか」
はじめが立ち上がり、美雪も慌てて立ち上がる。
「う~ん……どれも素敵な色合いで、迷ってしまいますね」
用意されたドレスを眺めるはじめは、真剣そのもの。
「お色だけでなく、デザインも異なっております。実際に着てみてはいかがでしょうか?」
「そうですね。わがままを言えば、一式揃えたいんです。できますか?」
「ご用意させていただきます」
「お願いします。──雀野さんは、どれが好み?」
話を振られた美雪は、並べられたドレスの中、一番無難であろうと思われるネイビーのものを指さした。