フェイク×ラバー

「ネイビーか。悪くはないけど、ちょっと華やかさに欠ける気もするね」

「そ、そうですか?」

 この色とデザインなら、三十代になっても十分着れると思うのだが……。

「俺としては……青か紫かな。どっちもパステルカラーだし、柔らかい雰囲気になる。……どっちだろ」

 二つのドレスを手に取り、美雪に合わせる。

「清楚なのは青だけど……いいや、着てみて。それで決めよう」

「わ、わかりました……」

 試着するのか。
 美雪は二つのドレスを持ち、試着室へ。
 正直、美雪からすればどちらでもいいので、こだわりがある人に選んでもらおう。支払いもあちらだし、下手に口出しするのも面倒だ。

「…………たっか!!」

 試着の際、ドレスに付いていた値札を見てしまった。想像よりもずっと値の張るドレスに、美雪は一瞬、固まってしまう。

「着れた?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ」

 こんな高いものを買うの?
 そしてこんな高いものを着るの?
 ……信じられない。
 今日、自分が着ているワンピースなんて、二千円もしないのに。

「着ました、けど」

「じゃ、見せて」

 試着室のドアを開ければ、はじめと女性店員の視線が自分に真っ直ぐ、突き刺さる。

「悪くないね。じゃあ、次は紫」

「……はい」

 ドアを閉めて、今度は紫に着替える。ラベンダーカラーも、パステルブルーと同じくらいのお値段だった。

「ああ……うん。紫がいいね、可愛いよ。これにしようか」

 ラベンダーカラーのワンピースドレスを着た美雪を、はじめが素直に褒めるので、勘違いしてしまいそうになる。
 こうもストレートに、しかも異性に褒められることなんて経験したことないから。

「靴はこちらがよろしいと思いますが、サイズはいくつでしょうか?」

 着るものが決まれば、次は履くもの。
 そして持つものと、飾るものに続くわけで。
 なんだかもう、疲れてきた。

「靴は二四です」

「では、こちらですね」

 店員が持ってきたのは、ヒールの高いパンプス。ラベンダーカラーに合う色の靴なのだろうが、ヒールが高すぎる。

 日頃から、ローヒール──それこそぺたんこ靴を履いている美雪にとって、ハイヒールは中々にハードルが高い。

「履いてみて」

 パンプスを見つめたまま動かないでいる美雪に、はじめが手を差し出す。

「は、い」

 大丈夫かな?
 大丈夫よね?

 はじめの手を借り、スツールに腰掛けた美雪は、おずおずと靴を履き替える。

「立ってみて」

「……う、わ……」

 言われた通り立ってみるが、やはり慣れない。
 これで歩ける?
 だってヒールが七センチ以上あるんだよ?


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