フェイク×ラバー
***
食事は狼谷家御用達のフレンチレストランだった。
時刻は午後三時。昼食には遅く、夕食には早すぎる時間ではあるが、お昼を食べていないので今の自分たちにはちょうどいい。
美雪とはじめは着替えもせず、レストランへ直行した。
それははじめの両親も同じだったらしく、チャペルで顔を合わせたときと同じ出で立ち。
「改めまして、はじめの父の満(みちる)です」
「母のみどりです」
「雀野 美雪です……」
はじめの両親を目の前に、美雪は戸惑ってしまう。
恋愛初心者の美雪にとって、仮とはいえ、恋人の両親との食事はとてつもなくハードルが高い。
しかも場所がフレンチレストラン!
ファミレスとかで十分なのにな……。
「美雪さんはいくつなのかな? はじめよりも年下、だよね?」
「あ、はい。二十四歳です」
はじめの父・満は、柔和な雰囲気の男性だった。
長男である怜は、父親似なのだろう。笑顔がそっくりだ。
「二十四歳なのね。はじめとは付き合って、どのくらい?」
「えっと」
「そんなに長くないよ」
答えに詰まる美雪にかわり、はじめが答えてくれた。
一応、“設定”を決めてはいるのだが、やはり咄嗟には答えられない。
「あら、付き合って短いのに、結婚式へ? 珍しいこともあるものね」
母親の意味ありげな言葉と視線に、はじめは素知らぬ顔。
「美雪さん、お勤めはどちら?」
「そんなこと聞かなくてもいいだろ」
「息子の恋人のことを知ろうとすることが、いけないこと?」
息子と母親の睨み合いで、食事の席はちっとも和やかじゃない。
みどりは恐らく、気づいているのだ。
美雪は本物の恋人じゃないことに。
もしかして、息子の反応を見て楽しんでる?
だとしたら、性格が悪いな。
「すまないね。いつもこんな感じなんだ」
「あ、いえ、大丈夫です」
気を使ってなのか、満が話しかけてくれた。
みどりは見るからに気の強そうな美人だが、夫の満は見た目通り穏やかで声音も優しい。
長男の怜は父親似。
そして次男のはじめは母親似、ということなのか。
「美雪さんはこっちの人なのかな?」
「はい。生まれも育ちも東京です」
「そうなのか。じゃあ大学も?」
「はい。明陽を卒業しました」
「明陽というと────」
「明陽女子大なの?」
会話に参加してきたのは、みどりだった。
「偶然ね。私の母も明陽を卒業しているのよ。どこの学部だったのかしら?」
「文学部です。フランス文学科を専攻してました」
「へぇ……」
隣から聞こえてきたのは、はじめの感心するような声。
そういえば、大学だとかの話はしなかった。必要ないと思っていたし。