フェイク×ラバー

 断ろうとしたはじめは、兄の一声によって写真撮影を余儀なくされた。
 美雪の手を強く握り、「わかった」と頷く。

「撮りますよー」

 写真撮影なんて、ほんの一瞬。
 怜と香穂子を中央に、美雪は香穂子の隣に並んだ。近づくと、より一層わかる。
 香穂子は美人だ。

「はじめくん! 笑顔」

 シャッター係を引き受けてくれたのは、なんとヴィオラの社長。
 美雪はかろうじて笑顔を作れたが、多分、引きつっていたような気がする。

「写真も撮らないで帰ろうとするなんて、薄情な友達ね」

「写真にこだわる必要、ないだろ」

「あるわよ! 一生に一度のことなんだから、ちゃんと形に残しておきたいの。はじめが恋人を連れて来てくれたんだから、なおさら一緒に撮らなきゃ。ね、怜さん」

「香穂子の言う通りだよ。ほんとに付き合ってる子、いたんだな」

 怜と香穂子が、揃って美雪を見る。
 二人は美雪のことを疑っていない。彼女だと、本気で信じているようだ。

「付き合ってどのくらいなの? いじめられたりしてない?」

「だ、大丈夫です。かみ──はじめさんは、優しい人、ですから」

 自分は嘘が上手なのだろうか?
 素直に喜ぶ香穂子を前に、良心がチクリと痛む。

「そろそろ俺たち行くよ。この後、空港だろ? せっかくの新婚旅行、遅れたりしたら大変だ」

「そうだな。帰ってきたら連絡するから、飯にでも行こう」

「仕事じゃなきゃ、行くよ。それから……────おめでとう、二人とも」

「ありがとう、はじめ」

「香穂子に会えたのは、お前の存在が大きい。むしろ俺が、礼を言わないとだな。出会わせてくれて、ありがとう」

「大袈裟。……行こうか」

「は、はい。あの、お、おめでとうございます!」

 はじめに手を引かれながら、美雪も慌てて祝いの言葉を告げる。
 今日会ったばかりだけど、めでたい席に呼んでもらったのだ。
 せめて祝いの言葉だけでも、伝えておかないと。

「…………ふぅ」

 式場の敷地内にある駐車場へ行くや否や、はじめは疲れたのか、大きなため息を吐き出す。

「お疲れですか?」

「ちょっとね。けどまだ、終わってないから」

「ああ、確かに……」

 彼女役として結婚式に出席すればいいだけだったのに、この後、美雪ははじめの両親と食事をする。
 大丈夫だろうか? 不安しかない。

「あんまり気負うことないよ。ちゃんとフォローするし」

「……はい」

 はじめは有言実行だから、フォローすると言えば、フォローするのだろう。
 ただそれでも、美雪の不安は拭えない。

「…………大丈夫かな」

 助けを求めるように空を見上げてみたけれど、雲一つない快晴が広がっているだけで、逃げ道は見つからなかった。


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