桜色レヴァリー

「………」

「………」

翔ちゃんは何か言いたそうだったけれど、わたしに遠慮をしているのだろう。ただ、わたしの後ろを自転車で押しながらついて歩いてくれるだけ。今までもだけど、絶対に横に歩かない。さらさらと流れる風と桜吹雪だけがやけに冷たい空間を更に冷徹なものに変えていく。
こんな時、何を話せばいいのか、あれから月日を重ねた今でもわたしには思いつかないでいる。  


「じゃあ俺はここで、風邪引くなよ」

「それはわたしの台詞だよ。ごめんね、夜遅いのに。わざわざありがとう。」

マンションのエントランス。
たわいの話だけをして、あとは帰宅のみ。いつもと同じ慣習。
翔ちゃんは自転車に跨ってわたしの帰宅を見届けてから帰るようで、なかなか動き出そうとはしないようだ。

「あ、あとこれ。貰い物で悪いけど、消化出来ないから良ければ貰って。」

ビニール袋を手渡されて重みのあるそれを中身をよく見ずに受け取って謝礼と別れの挨拶。 

「ありがとう。家に帰ってから見るよ。だからもう行って大丈夫だから。またラインするね」

「…おー。じゃあな。」
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