桜色レヴァリー
自転車が見えなくなるのを確認してから、オートロックを解除して部屋に戻る。
つい数週間前までは凍てつく様な冬の寒さだったのに、季節の流れは早いものだ。玄関を開けてもあのひんやりとした冷気が流れてこないのだから。
一息ついて、ダイニングテーブルに貰ったばかりのビニール袋を置き何気なく中身を取り出す。
「………!」
がたん!ばたん!!
手に取ることが出来ず思わず落としてしまい、それはコロコロと床に転がっていく。まるでそれはあの日と同じように、静かに壊れていく様で。
それを見た瞬間から額には冷や汗、ガタガタと震えだす指先。そして機能的に瞳に浮かぶ雫。瞼の裏側にひらひら舞う桜。
忘れたいに、どうしてすぐ溢れ出そうとするの?そればかりが思考の海を泳ぎ、身動きが何一つ取れなくなる。床に落ちたさくらんぼのジュース。浮かび出す桜吹雪。
はぁと大きく息を吐き、目を強く擦って涙でさえ見ないふり。貰ったそれは拾い再度ビニール袋に終いきつく結んで押入れに隠す。本当は二度と見たくなくて捨ててしまいたいけれど、何も知らない翔ちゃんの好意を無碍にしてしまうと憚れたからだ。