思いは海の底に沈む【完】
帰ると必ず美代子さんはいた



多分、外に出てないんだと思う





『美代子さん、ただいま』

「…」

『まだ怒ってる?』

「納得してない。別れないから」

美代子さんを後ろから抱き締める




『美代子さん、俺も言い方がきつかった。少しずつ距離置いていこう。
直ぐに別れるなんて言わないから』

「だったらこのままでも…」



甘えた口調になる美代子さんの言葉をピシャリと制する
『それはできない。もう、演技が出来なくなりつつある』

「どうして!?」

『無理があるんだよ。この先、男らしくなければ取れる仕事も少なくなる
もう俺は、自分を売っていけない。それに…』

「じゃあ、この先私はどう生きていけばいいの!?生きていくためにお金は必要なのに」

『…』



最後まで俺の心配はされないんだ…。

最初っから期待してなかったけど重くのし掛かる



負けたらだめだ。俺はこのせいでたくさんの人に嘘をつき傷つけてきた



『じゃあ、一緒に働こう』

「何で?今まで何不自由のない暮らしがあったのに」

『…』




何を言っているのか分からない

俺が甘やかしてきたせいで理解不能だった





「そんなことよりも、ねぇ。湊。あなた、騙されてるんじゃないの?」

『ん?誰に?』

「わかんないけど、周りの人に。だっていきなり…
あなたは自分の性別を分かってない」

『そうだね。これからはわかっていくつもりだよ』

「湊が騙されたから私は苦しいのよ。困ったことがあればこれからは私に言いなさい」

『…』


話がまるで通じない
…美代子さん、もしかして…。

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