狼を甘くするためのレシピ〜*
 蘭々を挟んで洸が仁とは反対側のカウンターに座る。
 それが三人で会った時の並び方だった。

 ――コウ、可愛い彼女は? 連れて来ないの?

 そう言いたかった。
 でもその言葉は、喉の奥で立ち止まったまま沈黙してしまう。

「いよいよ辞めちゃうんだね。どう? どんな気分?」

「コウ、それもう俺が聞いた。概ね良好だとさ」

 あははと笑い、笑ったおかげで胸のつかえが落ちたらしい。
 親友としての心を取り戻せた蘭々は、いつものように少し澄まして洸を振り返る。

「ありがとうね、コウ。仁も。みんなに助けてもらったおかげで、こんなに長くがんばることができた」

「いや、がんばったのは蘭々だ」

「あ、そうそうコウ、私ね、旅行から帰ってきたら仁の青山のジュエリーショップで働くことになったのよ」

「え、そっちに決めたの? なんだそうなの。うちの画廊に来るのも悪くないと思ったのになぁ」
< 10 / 277 >

この作品をシェア

pagetop