狼を甘くするためのレシピ〜*
蘭々がモデルを辞めても先が決められないでいるのを知ったふたりは、それぞれに新しい職場を提案してきた。
仁が勧めたのは自身がオーナーである宝石店。
洸は洸の母がオーナーである画廊。
「残念でしたー。あきらめろ」
仁がそう言う隣でクスクスと笑いながら、蘭々は誰にも明かしていない気持ちを心の中で囁いてみる。
――少し前まではね。画廊で働かせてもらおうと思っていたの。
西園寺家の画廊は、時間を見つけては訪れる、蘭々のお気に入りの場所である。
同じ一枚の絵が、見るたびに表情を変える。
その時々の心の内面を絵画の中に見つけ出すように、時が経つのも忘れて眺めていたい。素敵な絵画や美術品に囲まれる日々、どんなに素敵だろう。
そんな気持ちと他に、もうひとつ……。
本当は心に隠している別の“理由”があったのかもしれない。