狼を甘くするためのレシピ〜*
「やっぱりなー、ちょっと寂しいよ。LaLaはもう見れないんだもんなぁ」
「やだもう、私までいなくなるみたいじゃない」
「アハハ。ごめんごめん」
仁は手にしたグラスを蘭々のグラスに軽く当てた。
チーンと響いた高い音が、幕引きの合図のように響く。
また少し時計の針は進んでいる。
あと二時間ちょっとで、LaLaというファッションモデルは消えるのだ。
「お、来たな」
仁が店の入口に向かって、片手をあげた。
振り返った蘭々の目に飛び込んできたのは、青扇学園の同級生でもう一人の親友。
――コウ……。
ズキッと胸が疼く。
それは微かな痛みのように思えるけれど、傷はとても深い。
癒えるには長い時間が必要だろうと思いながら、蘭々は満面の笑みを浮かべた。
胸の痛みを悟られないようにと、それだけを気をつけながら――。
「コウ、仕事は終わったの?」
「ああ、終わったよ。ごめんね、遅くなった」
スーツ姿の彼は、席まで歩く途中バーテンにワインの銘柄を伝える。
彼の名は西園寺洸(さいおんじ あきら)。西園寺ホールディングスの若き常務取締役。
ごく親しい友人だけが彼をコウと呼ぶ。
蘭々もその呼び名を許された数少ないひとりだ。