狼を甘くするためのレシピ〜*
 クスクス笑いながらコーヒーを置くと、鈴木も話に加わった。

「あの女性は、どこから引き抜いたのですか? 以前ビジネスショーで見かけた記憶はあるのですが」

「さすがに記憶力がいいな。その通り、去年まで外資系の同業者にいたよ。ここに引き抜こうったってタメだぞ」

 鈴木は肩をすくめた。

 ビジネスショーで演台に立つ彼女のスピーチを、鈴木は大いに関心を持って聞き入ったことを覚えている。
 業界が違うので二の足を踏んだが、それでもスカウトしたいと思ったほどだ。

 今回のプレゼンでもそうだったが、彼女の声の出し方、間の取り方、選ぶ言葉までの全てが耳に心地よく響いた。洸が言うように彼女の手にかかれば何割増しの評価に繋がるということも、強ち大袈裟とは言い切れないだろう。
 鈴木はそう評価している。

「優秀な人材はどこでもほしいですからね。引く手あまただったでしように」

「早い者勝ちさ」と径生は笑うが、顔の広い鈴木はその辺の事情にも通している。
 他に彼女をほしがっていた会社があることを知っていたのだ。しかもかなりの好条件で。

 でも彼女は、業界の中でもまだそれほど有名ではない径生の会社を選んだ。
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