狼を甘くするためのレシピ〜*
 そしてその“理由”が脳裏をよぎり、胸の奥がまたチクリと痛む。
 手に届くところにいるのに、掴み取ることが出来なかった。

 結局は、何もかもにあきらめという決着をつけて選んだ仁の宝石店。
 そこで傷を癒し、新たな道を探すと決めた。

「そういえば、あれ? だって蘭々、自分の宝石店は売却したじゃないか」

「ああ、あの時はね。二足の草鞋は私には無理だってわかったから、売れるうちにって売ってしまったのよね。でもあの時ジュエリーの勉強もしたでしょう。一石二鳥ってわけ」

「そうか。じゃあさ、飽きたらおいで、いつでもうちの画廊は蘭々不足だから」

「あはは、なによ、それ。でもありがとう」

 ――可愛い恋人とジュエリーを買いに来てね。待っているから。

 今はまだ口に出しては言えないけれど、でも近いうち必ずそう言って誘うから。

 だからコウ、もう少しだけ待って。


   もう少しだけ……。
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