狼を甘くするためのレシピ〜*
 今までは下ろしてなかった前髪を目が隠れるくらいの長さに切り、横の髪も耳にかければ完全なショートヘアになるほど短くした時、鏡の中の自分は心からうれしそうに笑っていた。

 あれからひと月が過ぎた今でも、その時の気持ちは変わらない。

 ほんの少し伸びたとはいえ、剥き出しになったうなじが心細い気はするが、不思議なほど後悔はない。髪を切って頭が軽くなった分、羽が生えたように身も心も軽くなった。

 ラジオから流れる流行の歌を口ずさみながら、山を下りると人里がポツポツと見えてくる。
 バックミラーに映る赤い夕焼けを見て、市街地に入った頃には、あたりはすっかり闇に包まれていた。

 駅にほど近いマンションの駐車場に車を止めると、念のためにマスクをする。

 まだ、だて眼鏡だけでは安心できない。世間がLaLaを忘れるにはもう少し時間が必要だ。

 ここは関東の地方都市。
 このマンションには、蘭々の母方の叔母が住んでいる。

 モデルを辞めてすぐ、父に留守番を頼んで母とふたり、のんびりとヨーロッパを旅行した。一度自宅に帰ったからここに来て、今日で三日目になる。
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