狼を甘くするためのレシピ〜*
 慰謝料やら養育費やらで経済的にも困っていないが、早智は友人の小料理屋を手伝っていた。今日はたまたま店の定休日なので家にいるが、普段の食事はそこの賄いで済ませ帰りも十時と遅い。

 蘭々はあと四日ほどここでのんびりと過ごす予定だが、その間、自分の食事を自分で用意するだけの気楽な居候である。

「それにしても、髪を切ったら本当に別人みたい。誰にもわからないと思うわ」

「ふふ。化粧もほとんどしていないしね」

 早智は彼女の姉である蘭々の母の事情をもちろんよく知っている。蘭々が好きでモデルをしている訳ではないことも、よくわかっていた。だから自分の姪がLaLaだとは誰にも言っていない。

 しつこいファンや記者の目がある時は実家にも近づけない。辛くなった時、ひっそりと隠れたい時、蘭々はよくここに来た。この部屋は蘭々の安らぎの場所だった。

「ちょっと待っていて、変装の腕があがったの」

 そう言うと、蘭々は洗面所に行ってコンタクトレンズを外してメガネをかけた。
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