狼を甘くするためのレシピ〜*
 まだかまだかと思いながら、紗空はガラス越しに通りを見つめていた。

 待っているのは紗空が敬愛する蘭々。
 前回ふたりがランチを共にしたのは、先週。あれから一週間が経っている。

 ――あ。
 お目当ての彼女は、仕事の時の服装のままマスクをかけて歩いてくる。
 昼間の明るい陽射しのもとで目立つことを避けているのだろう。

 入口を入ってきたところで、紗空は立ち上がり手を振った。

 この店は観葉植物や仕切りで、客同士が丸見えになることもないし、ほどよい音量のバックミュージックが隣の席の声を消してくれる。

 さりげなくこっそりとプライベートな話をするには最適の店だ。

「おまたせ」

「いえいえ、全然、私も今来たところです」
 今と言っても紗空が店に来たのは二十分前。
 でも、そんなことはどうでもよかった。

 彼女を悩ませる謎の“知人”とは、その後どうなったのか。自分が力になれることは、もうないのか。気がかりなのは、それだけである。

 マスクを取った蘭々の顔を見た紗空は、少しだけホッとした。

 相変わらず美しいだけで、その表情から特に哀しげな様子は見てとれない。
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