狼を甘くするためのレシピ〜*
「以上が現在の彼の社会的境遇といったところでしょうか」

 一切口を挟むことはなく、淡々と話しを聞いていた蘭々は「どういう人なの?」と聞く。

 鈴木は軽く頷いた。

「彼の実の父親は彼がまだ子供の頃に亡くなったそうで、お母さまお一人で彼を育てたそうです。中学生の頃から、バイトに明け暮れていたと聞いています。
 お母さまは彼が大学に進んだ時に再婚され、今は大阪にいらっしゃるそうです。なので、彼は今ひとりで暮らしています。
 私が彼を知ったのは高校時代ですが、彼は当時公立の中でも最も偏差値の高い高校に通っていました。頭は優秀でも気の弱い学生がいたのでしょう。不良に彼らが絡まれると、片っ端からやり返す。そんな少年でした。内緒ですが、私も一度だけ加勢したことがあるので知っているんです。
 そんなところは、今も変わらない。義理堅く、情に厚く、頼りがいがあるいい男です」

 鈴木の話を聞いて蘭々は胸が熱くなり、思わず泣きそうになった。
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